FINAL FANTASY 3【火は歌う】 -14



   

  (14)あやかし と まやかし



  複雑に絡まり合った根。…それが どうやら幹に、枝に変化してきたのは
 上に登った証拠だ。逃がしてもらった牢獄の根の隙間。
 小人になった四人は、親指ほどの大きさの身体で必死に上を目指し、
 何とか脱出した。

 いくらか辺りも明るくなったようだ。
 『明け方の薄暗さ』が、『昼間の部屋の中』くらいまでに変化した。


 「植物ってこんな感じなのな、きっと」

  ムーンは言った。この明るさが、心から嬉しい。


 「きつかったよ…」 とポポ。

  こんなに長丁場な木登りは、初めてだった。だが、身軽で助かった。
 荷物を残らず奪われた事が、こんな形で幸いに転じようとは。


  キャンディが笑う。彼は、靴の…革紐だけを残らず抜いて、
 靴本体は「邪魔になる」と下層へ置いてきてしまった。お陰で素足だ。


  アリスは ―― 手足や頬を汚して、屈託無く笑っている長兄を見ると、
 こんな状況に居るのに、何だかウルの村に戻った気がした。
 正直、何だか ほっとしたのだ。

 旅を初めてから、兄は以前に増して てきぱき物事をこなす。
 綺麗で…相変わらず落ち着いて、何でも出来て ―― 自慢のお兄ちゃんだけど。
 最近、真面目な顔をすると、何だか時々 知らない人みたいに見えるから。

  ふと過ぎった寂しさを、彼女は自分でも気づかないうちに消した。


 「あっ…見て見て!あっち側、外みたい!空が見えるわ、ほらっ」


  巨大な塔ほどもある巨木に、刻まれた小さな窓。
 その向こう、幾重にも絡まって捩れた枝の隙間から、確かに青空が覗いていた。


 砂漠は、本日も雲一つ無い晴天だ。
 だからクリアに何処までも見通せる筈なのに、目の前の景色は
 どこか幻めいていて、遠かった。
 眩しい白の、向こうの世界 ―― まるで、淡い淡い水彩画。

 ものの輪郭を、全て ぼかしてしまった感じだ。
 うんと眩しい場所で、目覚めた時みたいに。



 「で…ここは、何処かしら?長老の木の中なのは、間違い無いんだけど…」

 「やっぱりそうなの?」

 「うん。声が凄く近くなったから――」

  アリスは頭を片手で押さえ、長老の声を探って捉えた。

 砂漠の中で聞いた時より距離は近い。
 が、今は自身があの時より元気なのだろう。
 思ったより、受け止めるのが辛くない。


 ―― 大丈夫よ。必ず助けてあげるからね。

 心の中で、そう伝える。
 届くかどうか分からない、届いても聞く余裕があるかも分からないけど。

 長老の木は、中も外も傷つけられて、弱っている。



 「だいじょうぶ?」

  ふと気づくと、ポポが心配そうに首を傾げて、こちらを覗き込んでいた。
 頭を押さえて眉を寄せる様が、辛そうに見えたのだろう。


 「あ、平気。心配させてごめんね。変な顔してた?」

 アリスは、ぱっと表情を明るくして笑った。
 ポポが安堵する。

 「元からじゃん?」 ムーンがすかさず茶々を入れる。


  きゃんきゃんと口喧嘩で騒がしくなった弟と妹を、キャンディが止めた。


  ――ここはハインの城、上層。通路の袋小路。
  この上に、きっと ―― 必ず、ハインが居る。


  キャンディは、ちらりとポポを見た。
  アーガス王がポポに伝えたこと。変に動揺を誘わなければ良いのだが。
  ポポは、目が合うと 「?」 ほんの少し首を傾げた。いつもの顔だった。




  人の気配が無い。
 嵐の前の静けさを彷彿させて不気味でもあったが、動くには楽だった。


 むしろ探索を困難にしたのは、
 助けを求めている…当の長老の木だったと言っていい。

 数えた樹齢は千年か万年か。
 大きな木の内部は、不可解に枝がにょろにょろと伸び、思ったよりずっと
 難解な迷宮を造り上げている。


 刻まれた木の内部に居るのだから、もっと空間全体が見渡せてもいいはずなのに
 何故か外に巡っている筈の幹や枝が、内部にもびっしり はびこっているのだ。

 長老の木の中に、何か別の植物が寄生しているようにも見える。


 お陰で、行けそうな場所が、塞がれて行き止まりになっているし、
 下手に進もうものなら、現在地を見失う。

 小さいままでは埒があかぬと、元の大きさに戻ったはいいが、
 果たして正しい選択だったのかどうかも分からない。
 〈ミニマム〉の乱用は、アリスの体力が保たないので避けたいところだ。


 「これ、ホントに木だよな…?」

 「だから、そう言ってるでしょ」


 外から見ても大きかったが、中も木とは思えぬくらい広かった。

 魔法的な力が働いているとしたら、それを施したのはハインか、
 それとも長老の木か?…考え出すと頭の中まで堂々巡りになりそうだ。



  とにかく、四人は上へ登れる場所を探して歩いた。
 怖いくらい静かで、誰も居なかった。

 中央部と思しき場所に向かうが、人為的な階段や
 上に登って行けそうな枝組は見つからない。代わりに見つけたのは――
 大人の体くらいの大きさの、瘤だった。


 「わっ」

 目の前に現れた奇妙な物体に驚いて、ポポが叫んだ。
 ミイラでも見つけたと思ったのだ。
 大きな屋敷ほどもある空間の、その中心に。


 瘤は金茶色で、岩みたいだと最初こそ思ったが、硬質な感じがしない。
 ぼこぼことした丸さが、妙に生々しかった。

 そして、その瘤を ―― 緑色というよりも青色に近い蔓が、
 しっかりと巻き付いて固定している。奇妙なこと この上ない。
 …できれば触りたくない代物だ。


 「ちょっとクリスタルの形にも似てるよな」

 「やだってば。一緒にしないで!」

  ムーンは、警戒しながらも手を伸ばしてみる。

 「ちょっ…やめ…っ」


  ―― ドクン。

  脈打った感触を…嘘か誠か感じ取って、
 おっかなびっくり側に来たポポとアリス諸共、

 「うわああ!!」  ―― 慌てて離れる。


  不用意に触るな、と注意を促したキャンディは、とある事に気づいた。

  中心部の瘤。そして、放射状に広がったこの ―― 通路。

 「みんな!」

 「何?」 「どうかした?」 「道、見つかったか」

 「道の広がり方を知りたいんだ。行き止まりは幾つあった?」


  袋小路を数え、そこから歩き直す。ここは、あっちもこっちも袋小路だらけ。
 記録する紙もインクも持っていないので、記憶力だけが頼りだ。
 それでも、何とか大まかな形を把握する。―― そして。


 「―― はっきりとは言えない。けど、これも魔法陣の一種かもしれない」

  ポポの衣装の、肩口に縫い込まれた模様を指して、キャンディは言った。

 「木の幹を円に見立てる。
  あの中心部に、魔法のエネルギーを凝縮するとしたら?」

 「あり得るわ」
 「――うん!」

  魔法担当のアリスとポポが、合点がいって熱心に頷く。


 「じゃあ、あの中心部の瘤を壊しちまえばいいんだ」 と、ムーン。

 「ちょっと、何でそうなるのよ!?」

 「…それは駄目だ。むやみに壊したら、
  長老の木に負担が掛かる可能性もあるからね」


  アリスが、その通りだと頷いている。


 「確かにこの辺、精霊が多いような気がするんだ。
  下手すると、凄いエネルギーで吹っ飛んじゃうかも」―― ポポが言う。



  あれやこれやと難しい話が始まったので、
 ムーンはその場を離れることにした。理屈を捏ねるより、動いた方がいい。


  来た道を…欠伸しながら、枝で塞がれた方へ向かう。
 これが思わぬ突破口に繋がった。


 今まで行き止まりにしか見えなかった部分。
 そこに ―― 人が通れそうな大きさの ―― 通路がある。
 重なり合う枝と、微妙な明るさの所為で分からなかったのだ。

 捩れた幹のトンネルを潜ってみると、登って行けそうな巨大な枝と、
 上に向かって巻き付いた太い太い蔓が見つかった。
 蔓は、相変わらず変な青緑色だ。


  下手をすると、もう…ハインまで報せが届いて、
 まやかしを見せられていたのかもしれない。
 あのオーエンの塔のメデューサのように、
 ハインは、どこかで俺たちの事を見張っているのかもしれない。

 でも、ここまで来たからには、進む。

 ―― ムーンは急ぎ、兄妹を呼んだ。




  更に上の階層は、実に巧みに使用されていた。
 敵である兵士たちの、待機所と保管庫になっていたのだ。

 通路を探すのは大変な迷宮だが、隠れて様子を探るには好都合だ。
 密な枝と枝の隙間からきょろきょろと確認する。

 兵士たちとは戦いたくなかったので、懸命に隠れてやり過ごす。
 普通に戦うより、この方が気力を使った。――とにもかくにも、心臓に悪い。


 「! ダナン…!」

  ばっちり見覚えのある黒い髭面を見つけたが、今出て行っては大騒ぎになる。

 「ハインを降参させれば、呪いは解ける」

  セトに言われたよう、敵を ―― 目的を誤ってはいけないと、
 キャンディは止めた。




  ―― 慌てて隠れた場所に、物が無造作に積まれていた。
 囚人たちから取り上げたものだろうか、道具や武器防具が一緒くたになって。


 見張りは居ない。ドアらしき物もないから、鍵も無い。
 ――警戒する必要が無いということか?
 お陰で こちらが警戒したが、何事も起こらず、無事だ。


  各自、自分の装備品を探した。
 他人様のもので役に立ちそうなものもあったが、
 ことにブーツや鎧などは、サイズが合わなかったりする。


 「ちぇーっ、これ、ちっちゃいよ。誰が履くんだ」

 「履けなくて良かったじゃない。持ち主が水虫だったりしたら、ヒサンよ」

 「げっ」


  金属製の鎧や兜は重そうなので、『木登り』の邪魔になりそうだ。
 拝借は避けた。


  ポポは、埋もれていた自分の帽子を見つけると、嬉々として取り上げた。

 「良かった!」


  一緒に探してくれていたキャンディが、側に転がっていた黒い棒を取って
 ポポに差し出す。


 「キャンディ…?これ!!」

 「なんだ、そのがらくた」

  ムーンには、ただの棒きれにしか見えなかった。
 焦げて細く短くなった、炭の棒だった。


 「良かった…残ってて。これ、ポポの杖だよな?」

 キャンディは言った。


 火のクリスタルの祭壇で ―― 四人は戦った。燃えさかる火焔の中で。
 その後、彼は この炭の棒を見つけて、ご丁寧にも拾ってきたのだそうだ。
 あの凄まじい炎の中にあってさえ ―― 残ったもの。


 「ドワーフのお爺さんに見てもらったら、
  炎の精霊が宿ってるっていうんで、そのまま貰ってきた」

  短くなっちゃったけどね、とキャンディは笑った。

 「案外、パワーアップしてるかもしれないよ?」



  ポポは呆然としながらも受け取った。受け取った途端、馴染んだ感触がした。

 「おじいちゃんの、杖だ…」

  嬉しかった。自分を…そして故郷を、再確認した気がした。



  次いで、キャンディは、自らの鎧や剣を探すが、見つからない。
 ドワーフ製品は物珍しいから、誰かが持っていったのかもしれなかった。


 「勝手に持っていきやがって!」

 「ひとのこと言えないでしょーが」
 「そうそう」
 「僕たちも同罪」


  仕方ないので、仕立ての良い上着を拝借した。革貼りなので暖かいし、
 胸や腹、肩に肘と、丈夫に作り込んであるので、心強い。

 キャンディは、鎖で編んだベストを中に着込むと ―― その上から、羽織った。
 細身の剣を帯びる。
 後で履けるようにと草の繊維で編んだサンダルを見繕って
 腰のベルトに吊し、出来上がりだ。

 「はい、キャンディ」

 「あ…ありがとう」

 アリスから髪紐を分けてもらい、手早く一本に括る。
 すると、やっと気になっていた襟足がスッキリした。

 「あんまり残りが無いから、大事に使ってね」

 「わかった」


  手持ちの鞄が残っていた。中身を出して無事を確かめ、ほっと息をつく。
 細々とした治療薬や日用品に混じって、一冊の本が出てきたのだった。


 「まったく。だから本なんか持ってくんなって言ったのに」

 「ちょっとでも読む時間が欲しくて」 長兄は照れたように笑った。


  ―― 織物師であるドワーフから譲り受けた本だった。

  この本には、精霊やクリスタルの力を喚び起こす魔法陣が描かれている。
 織物師は、この本を元に衣服に紋様を織り込んでいたのだった。

  魔法が今の形態へと変化する前 ―― 
 魔法珠や杖の使用が無かった、古の時代に使われていた魔法陣。
 当時は、大がかりな儀式で使われていたと聞く。
 大がかりであるが故に時間が掛かり、威力も強大だったという。

 白黒、二つの魔法が分化する前と、分化して後、魔法陣が巨大化、複雑化して
 現在の略式に転じるまで。―― 読めば読むほど、面白い。


 「物好きだな」 ムーンが呆れたように肩を竦める。

 「少しは役に立っただろ?」

  …何とか装備を調えて、その場を脱出する。

 「王様の剣、無かったな」

 アーガス王の剣は、特徴をしっかり聞いてきたのだが
 それらしきものが見つからなかった。





  不規則に絡まり合う枝と枝の間を抜ける。兵士たちの居る区画を無事に抜け、
 ほっと一息。だが、更に上の階層へ幹を伝って移動しようしたところで、
 人影を見つけた。

 「!」

  思わず、ひっ、と声を上げる。人が ―― 捕まっているのだが、
 その様が、常軌を逸していたからだ。


 複雑に絡まり合う木の枝。枝は密集し、例の如く壁を作って立ち塞がる。
 牢獄では根が寄り集まって壁や格子を作っていた ―― それと、同じように。


 その合間に、人間の首と――両手首の先端だけが、覗いていた。
 丁度 四人に対面する形で、その人は壁の隙間に束縛されていたのだ。
 まるで磔(はりつけ)だ。
 狂った長老の木が、人間を締め上げているようにも見える。


  気持ちの悪い光景だった。…これもきっと、ハインの仕業だ。


  怖かったが、四人は様子を確かめに駆け寄っていた。


  女性だった。がくりと うなだれた首は力が抜けきってしまっているよう。
 長い赤髪が後頭部から前に向けて流れ、顔面を覆っているせいで、
 表情は見えない。

 覗いた うなじと細い指は、骨のように白かった。
 血がもう巡っていないのか、―― それとも、まだ助かる見込みはあるのか。


 「お姉さん!」 「大丈夫!?」

 「おい…おい!聞こえるか!?」


  キャンディは、女性の手を取った。
 反応が返ってくる可能性は薄かったが、咄嗟にそうしていた。…すると。
 く、と力が籠もる。―― 生きているのだ!

 「聞こえますか?大丈夫ですか?」


  密やかな、息づかいが聞こえた。
 首がゆっくりと持ち上がり、目がうっすら開く。


  それを見た瞬間、殆ど同時にムーンもポポも ―― 寒気を感じた。
 


 トックルの村。連れ去られたのは男衆ばかりと聞いていた。

 残ったのは老人、女子供。『残す』のは、ハインにとって、
 『連れ去ることでの、利用価値が無い』からだ。

  ―― それなのに。


  何故ここに  女が  居るんだ?



 「―――」 キャンディの瞳が、驚きに見開かれる。

  ぎしっ、と手を掴まれた。凄い力だ。
  刹那、拒もうとする意志の一端が、彼の退いた肩に表れた。

  だが、女は放さなかった。
 血のように濡れた視線。振りほどけずに、若者の瞳から生気が抜ける。
 離そうとした手は、たちまち温和しく魔物の白い手の中に収まった。

 「キャンディ!!」

  ―― 人間なんかじゃない。


  背後から、甲高い悲鳴があがった。アリスだ。


  不死生物たちが、文字通り『湧いて出た』。
 ついと持ち上がった、女の両手首、それが合図だったのだろうか。
 汚れた包帯の合間から目を赤く光らせて、何人ものミイラたち。
 それに付き従う、青い人魂。



  キャンディの両肩に 手を掛け、妖女は枝の隙間から這い出た。
  ずる…と生々しい、嫌な音をさせて。
  出てきた下半分は、案の定、人間ではない。鮮血で染め上げたような色の蛇。
  ―― 半身蛇の魔物、ラミアだ。


  キャンディは、まるで貴婦人にでもするように
 手を貸して降ろしてやると、うっすらと微笑んだ。

 ゆっくりと、棘付きの細剣を抜く。―― 向き直った相手は、他ならぬ弟だ。


 「!!」


 「いやああああ!!」  「〈ファイア〉!!」


  もはや、しのごの言ってはいられなかった。絶体絶命。


  アリスが意識を失う。敵の不思議な力で、眠らされたのだ。
  ポポは死者の群れを相手に必死で応戦する。

  こんな場所なのに、湿って色の変わった包帯、
  怨念を持ち、どす黒い気配を漂わせる死者の魂。

  ―― どうして。どうして…みんな。




  ムーンは、武器らしい武器を持っていない。
 この局面ではそれが幸いだ、と思ったのだが、
 危険と紙一重の戦いでもあった。

 何しろ、一撃一撃が早いのだ。加えて、困ったことに
 今の兄の剣には、一切の迷いがない。
 何とか気絶させられれば良いのだが、
 考え無しで至近距離に飛び込もうものなら、一突き。それで終わりだ。


 「キャンディ!」

  目を覚ませ!何度となく呼びかけても、聞こえやしなかった。

  憎たらしいことに、あの女 ―― ラミアは、愉快そうに端で見物している。


  ひゅんひゅん!

 ハヤブサの名がついた連続攻撃を、キャンディは難なく繰り出した。

 これは、手合わせで、何度も見てきた。
 それなのに、今の…この切羽詰まった緊張感はなんだ。

  ―― どうしたら。どうしたらいい?




 「アリス、アリス起きて!!」

  呪文を完成させ、また放つ。ポポは大声で叫んだ。
 だが、魔法による眠りは、したたかで深い。
 もう何回これを繰り返しているか、分からなかった。

 ミイラたちは、後から後から現れる。妹を庇うので手一杯になっていると、
 いつの間にか周りを取り囲まれる形になってしまった。
 もう、防ぎきれない。


 「が、あああっ!」

 「!」

 ムーンの悲鳴が聞こえた。
 ポポの位置からは見えなかったが、彼は赤い蛇の尾に締め上げられていたのだ。

 正気を失ったキャンディが、にじり寄る。剣を手にして。


 「……っ」 「〜〜っ」


  ―― 間。


  「〈ファイラ〉――!!」

  呪文が轟いた。
 辺り一帯が、炎の波に包まれる。死者たちに向けて放たれた〈黒魔法〉は、
 彼らを巻き込み、燃え上がらせた。

 不意に生じた猛火の あまりの勢いに、
 ラミアと、彼女に付き従っていた兄が、思わず気を取られる。
 彼らが怯んだその隙に、ムーンは蛇の束縛を脱し、思い切り兄に突進した。


  どすっ


  描かれた剣の軌跡と、鈍い衝撃と。

  キャンディが、剣を取り落とした。鳩尾の辺りに飛び込んだムーン。
 彼は、のめってくる体を何とか両手で支え、受け止めた。

 「……っ俺の勝ち…っ」




  ポポが起こした〈黒魔法〉による炎は、何故か綺麗に消えてしまった。
 ミイラ達だけ綺麗に焼き尽くすと、他は殆ど焦がして黒くしただけで、
 吹き消されたように無くなってしまったのだ。

 ―― 長老の木 全体に燃え広がらなくて、良かったけれど。

  呆気にとられたポポは、一部 焼け落ちて広がった枝の隙間に、
 信じられぬものを見つけた。両手用の剣だ。咄嗟に引き抜いて持ち出し、
 重さに よろけながらも放る。

 「ムーン!!」

 「わっ!」


 下手な投げ方をしたので、剣は低く弧を描いて、床に突き刺さった。届かない。

 一方、危険を感じて たじろいだムーンだが、慌てて走る。



  ラミアが動いた。思ったより遅かったのが幸いした。
  ポポが立て続けに魔法を使い、冷気の塊を ぶつけて妨害する。


  剣に辿り着いたムーン。視界がぐらつくのを感じた。
  さっき、ギュウギュウに締め上げられたせいだろうか ―― 気持ち悪い。
  が、そう思った瞬間、重い胸が すっきりと冴えた。

  アリスが目覚めて体勢を立て直し、癒してくれたのだ。

  彼は、剣を一思いに抜いた。

    「でやあああ!!」

  重みに任せて、蛇女を一刀両断する。


   ひ、ぃぃぃん――

  発せられた、断末魔の叫び。
  絹を裂くような高い悲鳴だったが、同情する気にはならなかった。


 「……」

  息を弾ませながら、ムーンは手にした剣を確認した。
  幅広の、両手剣 ―― 金色の束には、見事に広げた鷹の翼。


 「『王様の剣(キングスソード)』、みっけ」

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