(3)ドワーフと硝子の塔
「グツコーが、わたしたちの宝物を盗んで逃げたの。
昨日…ううん、もうちょっと前」
角の番人であるドワーフの少女・キアは言った。
「グツコーは、地底湖に逃げ込んだんだけど…ドワーフ、泳げない」
「地底湖?行くだけなら簡単じゃねーの?泳がなくても」
「湖に潜って、逃げたの」
「はあ」
それっきり、浮かんでこない。だから逃げ仰せたんだろう、という理屈だった。
「グツコーだってドワーフなら、溺れるんじゃねーの?」
「そのはずなんだケド…グツコーは、何故だか泳げるの」
「はあ?」
「じゃあ、僕らが泳いで代わりに取り返してくれば…」
「万事解決ってわけね」
「おいおいおい」
ムーンは、あっさり頷く弟と妹を止めた。
だいたい、泳げもしないドワーフが単純な根拠で何を言うか。
泳げないんだから、湖の中がどうなってるかなんて、知れたものじゃないのに。
「行き場に困って飛び込んで…水死体になってる、なんてことねーか?
あんまり底が深いんで、沈んだまんまとかさ」
「………」 「やだ」
「ありそうなことだろ?」
「…分からないな。もしかすると、鉱脈とか…
古すぎて、彼らの間でも忘れ去られた採掘跡なんかが在るかもしれない。
あるいは地下水脈なんかを辿って、無事逃げた可能性もあると思うよ」
キャンディの検討は、ある意味前向きだ。
「水の音は、いつもする」 と、キア。
「う〜ん…」
で、無事に逃げおおせたのだとしたら、取り返せる可能性も少ないわけだ。
こうして話をしていると、ドワーフは何だか のんびりしたイメージがある。
しかし彼らなりに切羽詰まっているのだろう。
それが証拠に、話が時々逸れたり ちぐはぐになり、
四人は要点を得るのに、上手く話を誘導して纏めなければならなかった。
ここまで話が進むと、今は『火』のクリスタルのことを聞ける雰囲気ではない。
ポポは、落ち着かない気分になった。
クリスタルに会うのは とても躊躇われるが、ここまで来た以上、
逆に早く事を済ませてしまいたいような ―― 何だかもやもやして、
自分で自分が良く判らない。
一方ムーンは、遠慮無く話を先に進めた。
但し、このままだと話が噛み合わなくなりそうだから、
主語を端折るのは止めて、一言ずつ丁寧に伝えるよう、注意する。
「で、地底湖は どこなんだ?
俺たちに、グツコーの逃げ込んだ場所を教えてくれよ。
ちゃっちゃと行って、あんたたちの宝物、取り返してやるからさ」
―― できるものなら。との限定は、口にせずにおく。
「ああ、えっとね、こっち!」
上手く伝わったようで、キアが小さな足で駆け出した。
商品取引が主な用事である海賊たちを残し、彼らはドワーフの洞窟奥深く、
地底に湧いた湖へと向かった。
ドワーフの角を奪った泥棒・グツコーは、そちらへ逃げ込んだらしい。
気のいい巨漢・ゼンだけは、ドワーフの少女と共についてきた。
が、地底洞窟へ続く水路は、彼の巨体では通り抜けるのは難しかろう。
いや、潜る前に浮かびそうだな。…ムーンは思った。
「地震があってから、土の呼吸が弱くなったの。火の歌も前より響いてこない。
変わらないのは、水音だけ」
…『火の歌』と聞いて、光の戦士一行は反応する。
「北の山に建ってた、ガラスみたいな塔も、
きらきら光って綺麗だった。でも地震の後、消えた」
「そーいえば…地震で崩れたのか」
四人は本来の目的を思い出していた。
ここへ来て、ドワーフ文化の珍しさと泥棒騒ぎで、忘れかけていたのは内緒だ。
ポポとキャンディは、ビッケ船長の言ったことを思い出す。
曰く、火のクリスタルが納められているなら、きっと塔の中だろう…という。
アリスが仲間内に言った。
「硝子みたいな塔…ってクリスタルのことじゃない?」
「かもしんない。…キア、『火のクリスタル』って知ってるか?」
「火の?普通に採れる『水晶石(クリスタル)』なら知ってる。
でも、火は火でしょ?石にはならないラリ…」
光の戦士たちは、視線を交わした。
彼女が言うのは、おそらく採掘できる方の水晶 ―― クリスタルだ。
四人の意図する、生命の源『クリスタル』とは違う。
この辺、細かく言い出すとまた ややこしくなりそうなのだが。
よくよく話を聞けば、彼らドワーフは『硝子みたいな塔』を眺めることは
すれど、塔の中に入ったり、何があるのか確かめたことは今まで一度も無い
のだという。
―― 欲が無い、というべきか。大地の妖精族、何とも無垢なのは確かだ。
それは海賊たちも同じ。彼らは『硝子の塔』を
ドワーフの手による建造物だと思っていたし(実際は遙か昔の遺物だという)、
「眺める為のものだ」と聞いていたから、
今まで入口があるかどうかなど確かめなかったらしい。
…彼らが義賊だから、という言葉で片付けられないような気もするが、
とにかく最近クリスタルの所在を確かめる者は居なかったわけだ。
「平和なわけだよ、この島」 ムーンが呆れ気味に言った。
何とものんびりしたものだ。
自分たちだったら、さっさと見に行っていただろうに。
だからこそ今ここに居るのか、と思うと、キャンディは何だか可笑しくなった。
「じゃあ、とにかく調べてみるとしますか。まずは泥棒さんの行方からね」
アリスが言った。
「よーし、潜るか?」
「えっ、できっこないよ…深いんでしょ?」
ポポは始めこそ行く気だったが、
地底湖の深さを考えた途端、弱気になったらしい。
「蛙にでもなれればな…」
「それだわ、キャンディ」アリスは言った。
「えっ」
ぽかんとする三人に向かって、妹は ぱちりと片目を瞑った。「まかせて」
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