冒険日和
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それぞれの道を

――『私だって、お姉ちゃんがいなくても一人でトムの手助けが出来るわ!』
妹のサラが口答えするのを、あの時、初めて聞いた。
「……」
船上でエレンは溜め息をついた。あの子を守るのは自分だと思っていたのに。
「何だ、まだ落ち込んでるのか?」
連れのハリードが、また余計なことを言う。
傭兵トルネードとして名を知られたこの男を、エレンはまだ、どんな人物か掴みきれずにいた。
半ば強引に「一緒に来い」と言われたが、それはエレンの腕っぷしを買ってのことか。
…当てもなかったので同行することにしたが。
「ほっといてよ」
「執着と愛情は紙一重だ」ハリードは言った。「ほどほどにせんと、ロクな事が無いぞ」
「何それ、経験?」
 揶揄(やゆ)を込めて訊いてみると、彼は特に気にした様子もなく、「まあな」と答えた。
「妹も、成長したということだろう」
 わかってるわよ、と内心で言い返す。
エレンは、サラに頼られることで、姉としての存在意義を保ち安心していたのだ。
それに今になって気づくとは。
「サラには自分が居ないと駄目だ」と思っていたが、
ひっくり返してみれば、それは「自分にはサラが居ないと駄目だった」ということ。
 幼なじみのユリアンといい、サラといい、みんな新たな道を見つけて先へ行ってしまう。
エレンだけが、何やら置いてきぼりをくったような具合だった。
――『私はもう大人よ!』
 そんなサラの言葉を聞いて、つい かっとなって言い返してしまったのは、寂しさもあってのことだ。
(大人になって、それからどうするの?どこか私の手の届かない所に行くのね)
我ながら女々しい、らしくない考えにびっくりした。
だが、ウジウジ悩むのは好きじゃない。エレンは顔を上げる。同時に、ツヴァイク到着を知った。
「行くぞ。妹なら大丈夫だ」
 ハリードが言う。
「そうね」
「それに、縁はそう簡単には切れない。お前が大切だと思っている相手なら、尚更だ」
昔、迷子のサラを探し出した時、ずっと一緒よ、と約束したのを思い出した。
どこに居ても見つけると。
――『うん!』 笑顔の指切りを、エレンは今も覚えていた。
 たとえ進む道が分かれても、もしサラに何かあったとしたら、
エレンは必ず、どこへだって駆けつけるだろう。
大切な妹。
(元気でやるのよ、サラ)
お互い喧嘩したまま故郷を出て来てしまったけれど、今生の別れをしたつもりはない。
ただ、今暫く離れる必要があったんだろう。
あの子が自分の道を歩き始めたように、エレンもそろそろ、自分の事を考えてみようと思った。
――『サラのことは俺に任せてくれ、大丈夫だから』
 そう言って、自立心の芽生えた妹の意を汲み連れ出してくれたのは、幼なじみのトーマスだった。
彼の側ならば、とりあえず心配はあるまい。
(お願いね)
 あの時と同じ言葉を心の中で繰り返し、エレンは何も無い空中に向かって、小指を差し出した。
すいっと通った冷たい潮風が、その指先に触れていく。
(きびす)を返すと、エレンのポニーテールが揺れた。
「……」
「おい」
「今行くわ!」

――『ゆーびきりげーんまん!』


【使用お題】
①エレンとサラで『愛に近い執着』
②エレンで『大人になって、それからどうするの』
③サラで『指切り』
お題提供:診断メーカー「140文字で書くお題ったー」

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